●毛髪への浸透性やなじみやすさを数値化するための手法として、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)に着目。
白髪と黒髪キューティクルのHSP値の決定を目標として、定量的な手法により検証した。
●キューティクルは疎水性表面層と親水性内部層から形成されており、白髪と黒髪ではそれぞれ異なるHSP値を示した。
●白髪と黒髪のキューティクル各層のHSPの違いをもとに、狙った箇所への有効成分の浸透性向上方法の開発など、
HSPを使った新たな処方設計技術が期待される。
※本研究内容は、2021年度繊維学会 秋季研究発表会にて発表。
背景と目的
毛髪への物質の浸透性向上方法はヘアケア製品の重要な技術であり、染料やトリートメント成分などを効率よく内部まで浸透させるため、日々検討が行われています。これまでは、多くのトライ&エラーを繰り返し、目的成分の浸透に適した処方を見つける方法が一般的でした。
物質どうしの溶解性や相溶性(=なじみやすさ)の指標として、『ハンセン溶解度パラメータ(Hansen Solubility Parameter)(以下、HSPと表記)』 という値があります。毛髪のHSPを知ることができれば、毛髪となじみやすい物質が明確になるため、浸透性向上方法を効率的に検討するための極めて重要な情報となります。
しかし、毛髪は複雑で大きな構造を持つため、毛髪のHSPを決定することは容易ではありません。
今回、ハンセン溶解球法という手法を用いて、白髪と黒髪のキューティクルそれぞれのHSPを決定することを目指しました。
黒髪キューティクルのHSPの決定
キューティクルのHSPの算出は、HSPが既に分かっている溶媒に毛髪を浸けたときのキューティクルの状態変化を、3D測定レーザー顕微鏡にて定量的に評価し、キューティクルと各溶媒とのなじみやすさを判定しました。この判定結果を専用のプログラムにより解析することで、キューティクルとなじみやすい物質のHSPの範囲が緑色の球として示され、その中心点がキューティクルのHSPとして決定されます(図1)。
解析の結果、図1に示すように、黒髪キューティクルのHSPは2つの球として示されました。それぞれの球は、その中心位置のHSPの値から、下側の球は疎水性(油に近い性質)を示し、上側の球は親水性(水に近い性質)を示すことが分かります。
図1 黒髪キューティクルのHSP算出結果
図2に示すように、キューティクル1枚の構造を見ると、表面は疎水性の層、内側は親水性の層から形成されています。
このことから、図1で示された、下側の球は黒髪キューティクルの疎水性表面層のHSPに、上側の球は親水性内部層のHSPに対応していると考えられました。
図2 毛髪キューティクルの構造模式図
白髪キューティクルのHSPの決定
黒髪と同様の方法で、白髪キューティクルと各溶媒とのなじみやすさを判定し、HSPを解析した結果、図3に示す結果が得られました。黒髪キューティクルと同様に、疎水性と親水性の2つの球として示され、それぞれ白髪キューティクルの疎水性表面層、親水性内部層のHSPを示すと考えられました。
さらに、図1と図3に示された球の中心位置の違いから分かるように、白髪と黒髪のキューティクル各層のHSP値は違いがあることが示唆され、それぞれがなじみやすい物質が異なることが明らかとなりました。
図3 白髪キューティクルのHSP算出結果
まとめと今後の展望
今回の研究結果から、①毛髪キューティクルのHSPを決定するための定量的評価方法を明らかにし、②決定された白髪と黒髪キューティクルの疎水性表面層と親水性内部層のHSP値が異なることが示唆され、それぞれになじみやすい物質のHSP値が明らかとなりました。
本研究結果を応用することで、染料やトリートメント成分を効果的に浸透・定着させる製剤を従来よりも効率よく開発することが可能になると考えられます。また、数値にもとづいた成分の探索が可能になるため、これまで試みたことがないような成分の組み合わせや新規成分の設計などへの応用も期待されます。
本研究成果は、2021年11月18~19日にオンラインにて開催された繊維学会 秋季研究発表会にて発表を行いました。
発表会 | 2021年度 繊維学会 秋季研究発表会 |
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発表タイトル | 白髪および黒髪キューティクルのハンセン溶解度パラメータの算出 |
発表者 | 富樫孝幸、望月章雅 |
発表日 | 2021年11月19日 |