毛髪内部の空洞を3次元で高精度にとらえることに成功

ポイント

●FIB-SEM(集束イオンビーム走査型電子顕微鏡)を利用し、毛髪の内部構造をナノレベルで立体的に可視化することに成功。

●ブリーチ処理で発生する毛髪内の空洞は発生する箇所によって大きさに違いがあり、メラニン部分に発生する空洞は数100 nm程度の大きな空洞が多いのに対し、マクロフィブリル間の間充物質部分に発生する空洞は100 nm以下の小さな空洞が多いことが分かった。

●補修成分による空洞の補修効果を視覚的に確認することができ、補修率を算出することに成功した。

※本研究内容は、日本電子顕微鏡学会 第62回シンポジウムにて発表。

背景と目的

毛髪はヘアカラーやパーマなどによる損傷や加齢などにより、内部に空洞が発生することが報告されています。

こうした現象はこれまで、電子顕微鏡を用いてナノレベルで毛髪断面を観察することにより確認されてきました。しかし、従来の方法では特定の断面のみしか観察することができないため、空洞の形や大きさ、分布している場所などについて詳細に調べることは困難でした。

そこで本研究では、直交配置型FIB-SEM(集束イオンビーム走査型電子顕微鏡)を利用して、毛髪内部の立体的な画像を再現し、毛髪内に発生した空洞の形状や場所についての詳細な情報を得ることを目指しました。
また、この空洞部分の補修についても同様に評価を行い、「トリートメント処理による空洞の補修率」の計算を試みました。

研究結果①
空洞の3次元構造の可視化

毛髪はヘアカラーやパーマなどによる損傷や加齢などにより、内部に空洞が発生することが報告されています。

こうした現象はこれまで、電子顕微鏡を用いてナノレベルで毛髪断面を観察することにより確認されてきました。しかし、従来の方法では特定の断面のみしか観察することができないため、空洞の形や大きさ、分布している場所などについて詳細に調べることは困難でした。

そこで本研究では、直交配置型FIB-SEM(集束イオンビーム走査型電子顕微鏡)を利用して、毛髪内部の立体的な画像を再現し、毛髪内に発生した空洞の形状や場所についての詳細な情報を得ることを目指しました。
また、この空洞部分の補修についても同様に評価を行い、「トリートメント処理による空洞の補修率」の計算を試みました。

図1. 未処理毛の3次元画像 

図2.損耗毛の3次元画像 
※毛髪内部の一部(1辺10μm)を3次元に再構築し、空洞を黄色で可視化

健康な毛髪内部の様子

ブリーチ処理後の毛髪内部の様子

40代女性の未処理毛(健康な毛髪)とブリーチ処理毛(損傷毛)を、FIB-SEMのイオンビームで0.03μmの厚さに切削し、断面部分を電子顕微鏡で撮影しました。
この工程を300回くりかえし、300枚の毛髪断面の画像を合成することにより、健康毛と損傷毛の3次元画像を再現することに成功しました。

健康な毛髪では数10 nmの球状の空洞がわずかに点在していることがわかります。これらの空洞はマクロフィブリルの間に存在する間充物質(マトリックスタンパクや非ケラチンタンパク)で発生していることが確認されました。

一方、ブリーチ処理を行った損傷毛では、非常に多くの空洞がマクロフィブリル間の間充物質およびメラニン部分に発生していることが確認できました。
さらに詳細にみていくと、メラニン部分にできる空洞は数 100 nm程度の大きな紡錘状になり、マクロフィブリル間の間充物質にできる空洞は数 10 nm ~ 100 nm程度の比較的小さなものが多いことが分かりました。

研究結果②
空洞の補修効果と補修率の算出

図3.補修処理による空洞部分の減少 

図4.毛髪内の空洞化率 

さらに、損傷した毛髪に特定の補修成分を作用させた際の空洞の変化を観察しました。
損傷毛に対して空洞補修成分を作用させた毛髪(補修処理毛)の3次元観察を行ったところ、補修なしと比較して明らかに空洞が減少していることが確認できました。

全体に対しての空洞部分の体積「空洞化率」を比較すると、未処理毛は0.046%、損傷毛は1.119%であったのに対して補修処理毛では0.472%となり、補修処理によって空洞化が約58%改善されています。

FIB-SEMを用いた立体画像の観察により、空洞が補修される様子を可視化することができ、またどの程度補修されたのかを数値で評価することが可能となりました。

まとめ

FIB-SEMを利用した毛髪の観察により、毛髪が損傷した際に発生する空洞を立体的に可視化するとともに、その大きさや発生する箇所についての詳細な情報を得ることに成功しました。
毛髪のどの部分でどのような空洞が発生しているかを確認することで、より詳細なダメージ発生メカニズムの解明や適切なケア方法の確立につながると考えられます。

また、発生した空洞に対する補修効果については補修処理前後の空洞化率を用いた「補修率」を算出することにより、空洞がどの程度補修されたのかを数値で評価することが可能となりました。

今回の結果は化学処理によるダメージ進行の要因やその修復方法を探るために非常に有用な成果と考えています。今後は様々な毛髪の内部構造の観察や、そこから得られた知見を活かした新製品の開発に取り組んでまいります。

図3.補修処理による空洞部分の減少 

図4.毛髪内の空洞化率 

さらに、損傷した毛髪に特定の補修成分を作用させた際の空洞の変化を観察しました。
損傷毛に対して空洞補修成分を作用させた毛髪(補修処理毛)の3次元観察を行ったところ、補修なしと比較して明らかに空洞が減少していることが確認できました。

全体に対しての空洞部分の体積「空洞化率」を比較すると、未処理毛は0.046%、損傷毛は1.119%であったのに対して補修処理毛では0.472%となり、補修処理によって空洞化が約58%改善されています。

FIB-SEMを用いた立体画像の観察により、空洞が補修される様子を可視化することができ、またどの程度補修されたのかを数値で評価することが可能となりました。

本研究成果は、2019年11月29~30日に開催された日本電子顕微鏡学会第62回シンポジウムにて発表を行いました。

発表会

日本顕微鏡学会 第62回シンポジウム

発表タイトル

直行配置型FIB-SEMを用いた毛髪内部空洞化の3次元構造解析

発表者

田中 二郎

発表日

2019 年 11 月 30日

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