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研究

システアミンが毛髪に与えるダメージが少ない理由を解明

ポイント

  • システアミンとチオグリコール酸によるウェーブ形成メカニズムの違いを解析。
  • 次の2つの理由によりシステアミンはチオグリコール酸よりも毛髪に与えるダメージが少ないと考えられる。
    理由①:システアミンはウェーブ形成に影響の大きい毛髪シスチン結合を主に還元するため。
    理由②:システアミン処理では1剤処理後の過度な膨潤が抑えられているため。
  • 本研究内容は、アメリカ フロリダで開催された IFSCC 2016 the 29th Congressにて発表。

背景と目的 システアミンのウェーブ形成メカニズムの解明

近年、パーマネントウェーブ剤やカーリング料には様々な還元剤が利用されています。中でもシステアミンはしっかりとしたウェーブ形成が可能であるにも関わらず毛髪への損傷が少ないという特徴があり、非常に有用な還元剤と考えられています。

しかしながら“何故システアミンは毛髪に対してダメージが少ないのか”という疑問については、これまで様々な議論がなされてきましたが未だ不明な点が多く、確証を得るには至っていませんでした。毛髪へのダメージについて理解するためには、ウェーブ形成の詳細なメカニズムを考える必要があるためです。

そこで、システアミンとチオグリコール酸と比較・検討することによりシステアミンのウェーブ形成メカニズムを解明し、システアミンが毛髪へのダメージが少ない理由について明らかにすることを試みました。

研究結果① シスチン結合還元量から見たウェーブ形成の効率

図1 還元処理によるシスチン結合の減少量

システアミンとチオグリコール酸でそれぞれ処理した毛髪の、シスチン結合の減少量を調べました。シスチン結合の減少量が少ないことは効率よくウェーブを形成していることを示し、毛髪ダメージの抑制につながると考えられます。

ほぼ同等のウェーブの強さとなるように濃度を調整したシステアミン処理およびチオグリコール酸処理のシスチン結合の減少量を比較した場合、システアミン処理のほうがシスチン結合の減少は明らかに少ない結果となりました(図1)。

このことから、システアミンはチオグリコール酸と比べて少ないシスチン結合の還元でウェーブを形成することができる、つまりウェーブの形成に影響の大きい毛髪シスチン結合を効率よく還元していると考えられ、システアミンはチオグリコール酸よりもダメージを引き起こしにくいことが示されました。

研究結果② 還元時の毛髪の膨潤率の違い

図2 パーマ処理過程における毛髪の膨潤率

研究結果③ ウェーブ形成メカニズムの違い

–混合ジスルフィドによる架橋構造-

図3 システアミン還元毛中の混合ジスルフィドによる毛髪安定化モデル

研究結果①および②の結果をもとに、システアミンとチオグリコール酸のウェーブ形成メカニズムの違いについての考察を行いました。

これまでの研究で、チオグリコール酸で毛髪を還元する際に混合ジスルフィドとよばれる副生成物が毛髪内に生じ、毛髪の膨潤を促進することが知られています。そのため、混合ジスルフィドは毛髪のダメージ要因の一つとして考えられてきました。

システアミンによる還元でも同様に混合ジスルフィドが生じますが、チオグリコール酸とは異なり毛髪ケラチン内でイオン結合を形成し架橋構造を作ると考えられます。この性質により、チオグリコール酸の場合とは逆に毛髪の膨潤を抑制し、毛髪構造の安定化に寄与していると考えられます。

【まとめ】

今回の研究結果から、①システアミンはウェーブの形成に影響の大きい毛髪シスチン結合を効率よく還元している、②システアミン処理により生成する混合ジスルフィドは毛髪ケラチンとイオン結合を形成し毛髪の膨潤を抑制していることが明らかとなりました。

この2つの作用が、システアミンによるウェーブ形成時の毛髪に与えるダメージが少ない理由であると考えられます。


本研究成果は、2016年10月30日~11月2日にアメリカ フロリダで開催されたIFSCC 2016 the 29th Congressにて発表を行いました。

発表会IFSCC 2016 the 29th Congress in Orlando Florida
発表タイトル“Investigating the reduction mechanism of hair by cysteamine in permanent waving”
発表者富樫 孝幸、前川 琴子、緑川 朋子、岡野 みのる
発表日2016年11月1日