ダメージした毛髪内部構造に対する効果的な“修復”技術を開発

・ヘアカラー施術やパーマ施術によりダメージを受ける毛髪の内部構造に対して、グリシンベタインと高分子ケラチンタンパク質との組合せ処理が、高い“修復”作用を示すことを明らかにした。
・毛髪内部構造の効果的な修復方法が明らかになったことで、毛髪の強度や弾力感・しなやかさなどの質感を持続的に回復させるヘアケア製品への応用が期待される。
・本研究内容は、32nd IFSCC 2022 Congress Londonにて発表。

背景と目的

毛髪は死んだ細胞から出来たものであるため、ダメージを受けた毛髪は元に戻らないとされています。そのため、毛髪本来の構造が持つ、滑らかさやしなやかさといった優れた質感や性質はダメージによって失われてしまいます。一般的なトリートメント施術は、失われた質感や性質を補うための成分を付与することを目的とし、“補修”の考え方で行われています。それに対し、ダメージによって失われた毛髪本来の構造を取り戻す、“修復”の考え方を実現できれば、毛髪本来の優れた質感や性質を持続的に回復出来ると期待されます。

これまで修復方法を明確に示した例はほとんどありませんでしたが、アリミノでは2020年に植物由来のアミノ酸の一種であるグリシンベタインを用いて、毛髪内部コルテックスを構成するミクロフィブリル(結晶構造)の修復方法について報告しました。毛髪内部コルテックスは、ミクロフィブリル(結晶構造)とマトリックス(非晶構造)で構成され、どちらも毛髪の強度やしなやかさなど、毛髪本来の良い質感と大きく関わっていると考えられています(図1)。

図1. 毛髪の階層構造

本研究では、ミクロフィブリルとマトリックスの両方を効果的に修復する技術を開発することを目的として、グリシンベタインによる毛髪構造修復効果をさらに高める方法の探索を進めました。

その結果、グリシンベタインとケラチンタンパク質との組合せ処理により、ダメージした毛髪の引張り強度が相乗的に回復することを見出しました。この結果をもとに、グリシンベタインとケラチンタンパク質との組合せによる結晶構造および非晶構造への作用について、さらに詳細な研究を進めました。

グリシンベタインとミクロフィブリル由来ケラチンタンパク質の組合せ処理

化学的処理履歴の無い毛髪(未処理毛)に対して、パーマ処理を施してダメージ毛を作製しました(パーマ処理毛)。それに対し、グリシンベタイン(GB)のみ処理(GB処理毛)、ミクロフィブリル由来ケラチンタンパク質(IFP)のみ処理(IFP処理毛)、およびグリシンベタインとミクロフィブリル由来ケラチンタンパク質の組合せ処理(GB-IFP処理毛)を行いました。これらの処理毛について、水中引張り試験により応力を測定することで、毛髪のミクロフィブリル(結晶構造)の回復性を評価しました(図2)。

その結果、グリシンベタインとミクロフィブリル由来ケラチンタンパク質の組合せ処理(GB-IFP処理毛)は相乗的な応力回復を示し、毛髪の結晶構造が修復されたことを強く示唆しました。

図2 各処理によるミクロフィブリル(結晶構造)の回復性評価

各処理による毛髪内部結晶構造への影響を詳細に調べるため、シンクロトロン放射光小角X線散乱測定を実施しました。この測定では、毛髪内部の微細な周期的構造に関する情報が得られます。

図3に、赤道線方向の散乱強度の解析結果を示します。これらの結果から、ミクロフィブリル(結晶構造)の規則的配列の状態について評価しました。
未処理毛ではq = 0.7 [nm-1] のピーク形状が明瞭であり、ミクロフィブリルが同じような間隔で規則的に配列していることが分かります。一方、パーマ処理毛ではショルダーピークとなることから、規則性に乱れが生じていることが分かります。それに対し、GB-IFP処理毛では、ピーク形状が明確に回復することから、規則的な配列が大幅に回復しており、結晶構造が回復していることが示されました。

以上の結果から、グリシンベタインとミクロフィブリル由来ケラチンタンパク質の組合せ処理によって、ダメージによって構造が乱れた毛髪の結晶構造が修復されたことが示されました。

図3 各処理毛の赤道線方向の小角X線散乱強度

グリシンベタインとマトリックス由来ケラチンタンパク質の組合せ処理

上記パーマ処理毛に対し、新たに、マトリックス由来ケラチンタンパク質(KAP)のみ処理(KAP処理毛)、およびグリシンベタインとマトリックス由来ケラチンタンパク質の組合せ処理(GB-KAP処理毛)を行いました。これらの処理毛について、空中引張り試験により応力を測定することで、毛髪のマトリックス(非晶構造)の回復性を評価しました(図4)。
その結果、グリシンベタインとマトリックス由来ケラチンタンパク質の組合せ処理(GB-KAP処理毛)は、相乗的な応力回復を示し、毛髪の非晶構造が修復されたことが示唆されました。

図4 各処理によるマトリックス(非晶構造)の回復性評価

各処理による毛髪内部非晶構造への影響を詳細に調べるため、シンクロトロン放射光小角X線散乱測定を実施しました。

図5に、q = 0.7 [nm-1] ピークに関する方位角方向の散乱強度、および配向度の解析結果を示します。配向度は、方位角方向の散乱強度各ピークの半値幅から計算されるもので、ミクロフィブリル(結晶構造)の毛髪繊維軸に対する傾斜角度を評価できます。

未処理毛は配向度が高く、ミクロフィブリルが毛髪繊維軸と同じ方向に並んでいると考えられます。一方、パーマ処理毛では配向度が低下し、ミクロフィブリルの方向性に乱れが生じたことが分かります。それに対し、GB-KAP処理毛では、配向度が大幅に回復していることから、ミクロフィブリルの方向性が再び整列するような変化が起きていると考えられます。この整列は、ダメージを受けて方向性が乱れたミクロフィブリルのすき間にマトリックス由来ケラチンタンパク質が充填されることで生じたと推測され、毛髪本来の構造に近づいたことが示唆されます。

以上の結果から、グリシンベタインとマトリックス由来ケラチンタンパク質の組合せ処理によって、毛髪の非晶構造が(部分的に)修復されたことが示唆されました。

図5 各処理毛の方位角方向の小角X線散乱強度および配向度解析結果

毛髪構造の修復イメージ

以上の結果から、図6に示すように、グリシンベタインとミクロフィブリル由来ケラチンタンパク質の組合せ処理(GB-IFP処理)により、毛髪の結晶構造が修復されることが示されました。
一方、グリシンベタインとマトリックス由来ケラチンタンパク質の組合せ処理(GB-KAP処理)により、非晶構造が充填されるという、非晶構造の(部分的な)修復が示唆されました。

図6 グリシンベタインとミクロフィブリル由来またはマトリックス由来ケラチンタンパク質の組合せ処理による毛髪内部結晶構造および非晶構造の修復イメージ

まとめと今後の展望

本研究により、グリシンベタインによる毛髪構造修復効果をさらに向上させる方法を検討することで、毛髪内部コルテックスを構成するミクロフィブリル(結晶構造)の効果的な“修復”方法が明らかになり、また、マトリックス(非晶構造)についても部分的な“修復”が示唆されました。

毛髪内部の結晶構造の修復方法が明らかになったことで、毛髪本来の強度や、弾力感・しなやかさなどの質感を持続的に回復することが可能になると考えられます。さらに、非晶構造の部分的な修復方法が示されたことで、今後の検討により、毛髪内部構造全体を本来の構造により近づける修復方法の開発へと繋げることが期待されます。

毛髪内部構造はダメージだけでなく加齢などによっても変化することが分かってきており、本研究結果を応用することで、幅広いターゲットに向けた持続性の高いヘアケア製品の開発を目指して行きます。

本研究成果は、2022年9月19~22日にイギリス ロンドンにて開催されたIFSCC 2022 London 大会にて発表を行いました。

発表会

32nd IFSCC Congress London 2022

発表タイトル

A New Method to Restore the Hair Crystalline and Amorphous Structures: Combination Treatments of Glycine Betaine and Macromolecular Hydrolyzed Keratin Proteins

発表者

富樫 孝幸、望月 章雅

発表日

2022年9月19日~22日

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