FIB-SEMを用いた毛髪微細構造とダメージの同時3D可視化

●FIB-SEMで取得した毛髪断面の画像データを利用し、毛髪内の微細構造と損傷部位の同時3D可視化に成功した。
●ブリーチによる毛髪ダメージを防ぐ成分を探索したところ、S-スルホン化ケラチンと呼ばれる成分にダメージを防ぐ効果を確認した。
●本研究内容は、32nd IFSCC Congress London 2022にて発表。

背景と目的

近年、毛髪の内部構造やダメージなどによる変化を正確にとらえるため、毛髪内を立体的に観察する技術が検討されています。これまで当社においてもFIB-SEMを利用し毛髪内のダメージ部位を立体的に観察する方法を開発、報告しています(2020年3月2日発出。「毛髪内部の空洞を3次元で高精度にとらえることに成功」参照)。 しかし、従来の方法では得られる情報は限定的で、例えばダメージを受けた毛髪がどの箇所にどのような変化が起きているのかを観察することは難しく、より詳細な観察方法が求められてきました。

そこで、本研究ではFIB-SEMで得られた複数の画像データを詳細に解析、3D化処理することにより、毛髪の微細構造とダメージ部位を同時かつ立体的に観察する手法を開発しました。更にブリーチ処理による毛髪のダメージを未然に防ぐ成分の探索を行い、その効果を詳細に確認いたしました。

※FIB-SEM:
FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム装置)とSEM(scanning electron microscope;走査型電子顕微鏡)を組み合わせた装置です。FIBにより試料を加工し、SEMにより観察を行う工程を繰り返す事で連続した画像を取得し、それを重ね合わせることで3D画像を構築する事ができます。

毛髪内微細構造とダメージ部位の3D可視化

FIB-SEMで得られた毛髪断面の画像データを解析し、それを3D化処理することにより、これまでの手法では困難だった毛髪内の微細構造とブリーチによるダメージ部位を同時に3D可視化することができました。この手法を用い、ブリーチ処理を施した毛髪について得られた3D画像を2D画像と合わせて図1および2に示します。

図1はメラニンと損傷部位の3D画像です。ブリーチ処理により、メラニン周辺にダメージが起こることが確認できます。また、一つ一つのダメージ部位のサイズはメラニンよりも小さく、小さな損傷が複数の個所で起きている事も観察されました。

図2はメラニンとCMC、ダメージ部位の3D画像です。CMCを中心に比較的広い範囲にわたってダメージが生じていることが確認できました。

また表1は微細構造とダメージ部位のサイズを測定した結果です。メラニン周辺に発生したダメージ部位と比較して、CMCを中心に発生したダメージ部位のサイズは数十~数百倍の大きさで、それぞれの部位でのダメージ傾向が異なることが示されました。

図1. 毛髪内メラニンとダメージ部位の3D可視化

図2. 毛髪内メラニンとダメージ部位とCMCの3次元可視化

表1. 微細構造とダメージ部位のサイズ

※CMC:
毛髪の微細構造のひとつで、主に脂質層と水層でできています。 CMCは、髪の表面を覆っている「キューティクル」や、タンパク質でできた「コルテックス」を接着し、また美容施術等の薬剤やトリートメント成分等の通り道としての役割を果たしています。

ブリーチによるダメージから毛髪を保護する成分の探索

次いで、ブリーチによるダメージから毛髪を保護する成分の探索を行いました。ブリーチ処理により、毛髪からタンパク質が流出し、その結果として毛髪内に空洞が発生する事が知られています。そこで、加水分解ケラチンを中心にダメージによるタンパク流出を抑える成分を探索したところ、「S-スルホン化ケラチン」と呼ばれる特殊な製法で作られた加水分解ケラチンに、ダメージを予防する効果が高い事を見出しました。

図3. ブリーチ処理によるタンパク質の流出量

※S-スルホン化ケラチン:
分子内にスルホン酸基を持つ特殊なケラチン。活性ケラチンとも呼ばれている。

S-スルホン化ケラチンのダメージ予防効果を3D可視化にて確認

最後に上記でブリーチのダメージ抑制効果が認められたS-スルホン化ケラチンA・Bを配合し作成した製剤の効果をFIB-SEMを用いて3D可視化により確認しました。S-スルホン化ケラチンを配合した製剤を用いることで、ブリーチによる毛髪ダメージを予防している事が3D画像にて確認できました。ブリーチ施術では毛髪内のメラニンの分解による空隙が発生する為、ダメージ箇所と区別する必要がありますが、本手法はこれらを区別する事ができるため、ブリーチによるダメージを保護する効果を詳細に観察する事ができました。

図4. S-スルホン化ケラチンのダメージ予防効果を確認する3D可視化画像

まとめ

本研究では毛髪内の微細構造とダメージ部位の同時3D可視化に成功し、ブリーチにより生じるメラニン周辺のダメージとCMCを中心とした部位のダメージについて詳細に確認しました。また、S-スルホン化ケラチンがブリーチによるダメージを予防する事を見出し、更に本方法を用いてその効果を詳細に確認いたしました。

本研究で見出した方法を用い、今後も更なるダメージの解析と効果的なヘアケア製品の開発へとつなげていきます。

本研究成果は、2022年9月19~22日に開催された32nd IFSCC Congress London 2022にて発表を行いました。

発表会

32nd IFSCC Congress London 2022

発表タイトル

Simultaneous 3D visualization of hair microstructure and damage using FIB-SEM

発表者

大熊康範 田中二郎 望月章雅

発表日

2022年9月19日~22日

本研究の一部は、文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム課題とし名古屋大学構微細構造解析プラットフォームの支援を受けて実施されました。

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