・情緒性と機能性の両方を持つ天然成分の探求を行い、魅力的な色を持ち古来から染料としても用いられてきたシコンエキスに着目し、新しい有効性を発見した。
・シコンエキスの肌と毛髪への有効性の評価を行い、シコンエキスは皮膚のバリア機能亢進に寄与する効果と、皮膚・毛髪のカルボニル化を抑制する効果を確認した。
・このことから、シコンエキスは肌荒れ予防効果や肌・毛髪のエイジングケアやダメージケア効果など、肌と毛髪に有用な機能を有する製品への応用が期待される。
・本研究内容は、日本薬学会 第143年会にて発表した。
背景と目的
製品を構成する価値は、化粧品で言えば使用感や保湿効果、補修効果などの性能や効果を示す機能的価値と、美しさや心地よさ、楽しさといった感性を刺激する要素の情緒的価値に大別できます。特に化粧品においてはその魅力度に情緒的価値が非常に大きな影響を与えるため、弊社では天然成分の「色」の持つ情緒的価値に着目してきました。またアントシアニン、カロチノイドなどの天然色素は、人間にとって有用な効果を有することも広く知られているため、「色」を持つ天然成分は情緒的価値と人体への有効性を持つ場合が多いと考え、研究を進めてまいりました。その中で、魅力的な色味を有し、古来より繊維の染色に用いられてきた歴史のあるシコン(紫根)に着目しました。シコンエキスは昔から生薬や傷薬などに用いられ創傷治癒効果、殺菌効果等が特に知られていましたが、化粧品としての有効性の報告はほぼありませんでした。そのため化粧品用途での有効性の取得の検討を行いました。本研究では肌荒れ予防と老化予防の観点から、シコンエキス添加による皮膚バリア機能形成能評価と皮膚・毛髪に対する抗酸化作用の評価を実施し、その効果を確認致しました。
研究結果① 皮膚バリア機能形成能評価
皮膚健常性の維持にはバリア機能が非常に重要であることが知られています。バリア機能形成能の評価として、ヒト表皮角化細胞(NHEK)を用いてシコンエキス添加によるバリア機能形成に関連する遺伝子発現量の評価を行いました。角層細胞形成に関連する遺伝子としてフィラグリン(FLG)、コーニファイエンベロープ(CE)形成に関連する遺伝子としてインボルクリン(IVL)、トランスグルタミナーゼ1 (TGM1)、細胞間脂質でラメラ構造の形成に関連する遺伝子としてセラミドシンターゼ1(CERS1)の遺伝子発現量を評価しました。
図1. バリア機能形成に係わる遺伝子の例
評価結果
シコンエキスの添加により、FLG、IVL、TGM1、CERS1の遺伝子発現量が有意に増加しました。この結果から、シコンエキスは角層細胞の強化、CEの成熟、細胞間脂質のラメラ形成の3つの観点からバリア機能亢進に寄与することが示唆されました。(図2~5)
図2. FLGのmRNA発現量評価結果
図4. TGM1のmRNA発現量評価結果
図3. IVLのmRNA発現量評価結果
図5. CERS1のmRNA発現量評価結果
研究結果② 皮膚・毛髪に対する抗酸化作用の評価
酸化ストレスによって生じるタンパク質の変化のひとつにカルボニル化があります。肌では加齢や紫外線によってカルボニル化が進行し、「黄ぐすみ」の原因となることが報告されています。また毛髪でも加齢や紫外線によってカルボニル化が進行することから、「老化やダメージの指標」として考えられています。本研究では、角層・毛髪を採取し強制的にカルボニル化を促進させる条件下で、シコンエキス添加による角層および毛髪のタンパク質カルボニル化の抑制効果を蛍光法にて評価しました。
2-1 角層に対するカルボニル化抑制効果の評価
この評価方法では、カルボニル化したタンパク質が発光して観察され、発光が強いほどタンパク質がカルボニル化されていることを示します。次亜塩素酸を用いたカルボニル化進行試験において、シコンエキスを添加することで角層でのカルボニル化の進行を抑制することを確認致しました。
図6. 角層でのシコン添加によるカルボニル化抑制評価
2-2. 毛髪に対するカルボニル化抑制効果の評価
次亜塩素酸を用いた毛髪のカルボニル化進行試験においても、シコンエキスはカルボニル化の進行を抑制することを確認致しました。
図7. 毛髪でのシコン添加によるカルボニル化抑制評価
評価結果
シコンエキスは角層、毛髪に対しカルボニル化を抑制する効果が認められ、肌と毛髪の老化防止効果、ダメージ防止効果が期待されることが示唆されました。
まとめ
ヒト表皮角化細胞(NHEK)を用いたバリア機能形成能の評価において、シコンエキスは皮膚バリア機能亢進に寄与することが示唆されました。角層および毛髪でのタンパク質カルボニル化抑制評価において、シコンエキスはカルボニル化抑制効果が認められ、肌・毛髪に対する抗老化効果やダメージ抑制効果が期待できることが示唆されました。本研究により、シコンエキスは化粧品に配合することで情緒的価値を提供するだけでなく、機能的にも肌荒れ防止効果、肌と毛髪の抗老化効果、ダメージ防止効果などが期待できる可能性が示唆されました。本研究の成果は、今後スキンケア製品・ヘアケア製品に活用していく予定です。今後もより多くのお客様の肌悩み・髪悩みを解決することを目指し、研究を続けてまいります。
発表会 | 日本薬学会 第143年会 |
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発表タイトル | シコンエキスの肌・毛髪への新規有効性 |
発表者 | 西垣祥子 田中二郎 |
発表日 | 2023年3月25日~28日 |