●界面活性剤の刺激性について、網羅的に検証した。
●界面活性剤による刺激性を抑制する成分を見出した。
●これらの成分を組み合わせることにより、従来よりも肌に優しいシャンプーの開発を可能にした。
※本研究内容は、第119回 日本皮膚科学会総会にて発表。
背景と目的
理・美容師は、職業性接触皮膚炎「手荒れ」を発症しやすい職業のひとつと言われています。高度な技術を必要とする理・美容師にとって、手荒れは深刻な問題であり、手荒れが原因で離職する方も少なくありません。
また、一般生活者においても、敏感肌や頭皮のトラブルに悩む人が増えていると言われています。
アリミノではこういったトラブルや不安を少しでも減らしていくため、手肌や頭皮への負担が極力少ないシャンプーの開発を目指し研究を進めています。今回、シャンプーの主成分である各種界面活性剤を網羅的に調査するとともに、刺激を低減させる成分の探索を行いました。
研究結果①
界面活性剤の選定
図1. シャンプーに含まれる界面活性剤の種類
図2. アニオン界面活性剤によるタンパク質への影響
図3. 両性界面活性剤によるタンパク質への影響
図4. ノニオン界面活性剤によるタンパク質への影響
シャンプーには通常、「アニオン界面活性剤」「両性界面活性剤」「ノニオン界面活性剤」の3分類の界面活性剤が配合されています(図1)。
これらの界面活性剤の刺激性について、これまで個々もしくは数種類の界面活性剤を比較した研究は報告されていますが、網羅的に評価した報告は多くはありませんでした。そこで本研究では、まず化粧品原料として使用されている界面活性剤について、皮膚刺激性の指標の一つ「タンパク質への影響」を網羅的に検証いたしました(図2、図3、図4)。
その結果、これまで知られているように界面活性剤の違いによりタンパク質への影響は大きく異なることが確認されたとともに、一般的なイメージのように「アミノ酸系だから低刺激」とは一概に言えない事や、同一の組成の界面活性剤であっても製造方法等が違えばタンパク質への影響が異なる点(データ未掲載)などが示され、網羅的に評価する事の重要性が確認できました。
※タンパク質への影響 :不溶性タンパク質の構造変化の度合いで評価。界面活性剤の皮膚への刺激の一因とされている。
研究結果②
タンパク質への影響を抑制する成分の探索
図5.界面活性剤によるタンパク質への影響に対する抑制成分
次に、界面活性剤によるタンパク質への影響を抑制する成分についての探索を試みました。
その結果、アスパラギン酸・グルタミン酸・アセチルヒドロキシプロリン等の一部のアミノ酸に高いタンパク質への影響を抑制する効果が確認できました。これらのアミノ酸をシャンプーに配合する事によって、シャンプーの刺激を抑制する可能性が示唆されました。
研究結果③
モデルシャンプーの刺激性評価
図6. シャンプーによる角質層への影響
(左から水、従来品、モデルシャンプー)
図7. シャンプーによる肌の水分量への影響
※:水分蒸散量=肌のバリア機能の指標。バリア機能が低下すると値が高くなる(肌が水分を抱え込まず、肌から水分が蒸散していく)
最後に、ここまでで判明した研究成果を基にモデルシャンプーを作成し、その刺激性を皮膚の角質層への影響、および肌の水分量・水分蒸散量で評価しました。
図6は皮膚の角質層の変化を示したものです。従来のシャンプーに比べモデルシャンプーでは角質層の損傷が少なく、水のみで洗ったものと同程度であることがわかりました。※:赤色が多い=角質層が損傷を受けている
図7は肌の水分量および水分蒸散量を比較しています。こちらもモデルシャンプーは水のみの場合と同程度の値を示しており、シャンプーの使用による影響が非常に少ないことが示されています。
これらの結果から、今回の研究で得られた知見を応用することにより、手肌や頭皮への負担を限りなく抑えたシャンプーの開発が可能になると考えられます。シャンプーとしての使用感についても従来品と比較して遜色はないことから、肌への影響を最大限に考慮しながら使用感にも優れたシャンプー開発への応用が期待できます。
本研究成果は、2020年6月4~7日に開催された第119回日本皮膚科学会総会にて発表を行いました。
発表会 | 第119回日本皮膚科学会総会 |
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発表タイトル | 手肌にやさしい毛髪洗浄剤の開発 |
発表者 | 大熊康範 田中二郎 |
発表日 | 2020年6月4日~7日 |