●三次元皮膚モデルを用いた試験により、酸化染毛剤による刺激の強弱を官能評価よりも高感度で比較できる手法を確立した。
●刺激緩和を目的に配合しているいくつかの成分について、確立した手法により評価したところ、刺激緩和効果が認められた。
●本研究内容は、第87回SCCJ研究討論会にて発表。
背景と目的
酸化染毛剤は現在、最もポピュラーなヘアカラー剤として認知されていますが、使用した際まれに「チクチク」あるいは「ヒリヒリ」といった刺激を感じてしまう場合があります。こうした背景から我々は刺激抑制の研究を行ってきました。
ヘアカラーの刺激を評価する方法としては実際に使用してテストする官能評価法が一般的です。しかしながら、官能評価では僅かな差を判別することが難しく、さらに刺激の感じ方には被験者ごとにバラつきがある為、正確に刺激を評価するには非常に多くのテストを要するという課題がありました。
そこで本研究では、官能評価法に代わる新たな刺激の評価方法として、三次元皮膚モデル1)を用いた皮膚刺激性評価を検討しました。
1) 三次元皮膚モデル
成人ヒト表皮細胞をプラスチックインターセル中のコラーゲン膜上で培養して作製したもの。
三次元皮膚モデルを使用したヘアカラー刺激の評価
アンモニア量の異なるヘアカラー剤について、三次元皮膚モデルを用いて刺激評価を行いました(図1)。評価の指標はMTT試験による細胞生存率とELISA試験によるIL-1α2)発現量で評価しました。細胞生存率については値が低いほど、IL-1αの発現量については値が高いほど刺激が強いと考えられます。
その結果、官能評価では判別が難しかった僅かな刺激の差についても比較が可能であり、刺激評価の代替法として有用であることが示されました。
1) 2) IL-1α
サイトカインと呼ばれる生理活性物質の一種。炎症反応に深く関与している。
図1. アンモニア配合量による刺激への影響
刺激緩和成分の検証
次に、刺激緩和を目的に配合しているいくつかの成分について、その効果の検証を行いました。
図2に示すように、炭酸水素アンモニウムは細胞生存率を向上させる一方でIL-1αの発現量に変化がみられず、加水分解ローヤルゼリータンパク液は細胞生存率、IL-1αの発現量ともに刺激の低減を示す結果となりました。
この結果から、これら2つの成分はそれぞれ異なる機構で刺激を抑制している可能性が考えられます。
ヒトが感じる刺激は大きく分けて外因性の感覚刺激と内因性の炎症性刺激があります。炭酸水素アンモニウムを配合すると細胞内部のpH上昇が抑えられ、その結果外因性の感覚刺激を抑制し細胞生存率が高くなったと考えられます。一方、加水分解ローヤルゼリータンパク液はIL-1αの発現量を抑制することで炎症性刺激が低減し、その結果細胞生存率も上昇するのではないかと考えられました。
図2. 配合成分の違いによる刺激への影響
まとめと今後の展望
従来から行われている官能評価では異なるメカニズムによる刺激を判断することは難しく、開発においても経験や感覚に頼る必要がありました。三次元皮膚モデルを用いた刺激性評価では、解析するポイントを絞ることで、どの成分がどのような働きをしているのか、といった従来よりも精度の高い評価が可能になります。
今後は本研究をさらに深めていくとともに、今回見出された技術を利用して、より皮膚刺激が少ないヘアカラー剤の開発を進めていきます。
本研究成果は、2021年12月3日に開催された第87回SCCJ研究討論会にて発表を行いました。
発表会 | 第87回SCCJ研究討論会発表 |
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発表タイトル | in vitro 試験法を用いた酸化染毛剤による皮膚刺激性評価の検討 |
発表者 | 増田悠佑 |
発表日 | 2021年12月3日 |